「優しい光」
犬鳴き峠と言うところがある ここは、よくお化けが出る事で有名で、何度かテレビで紹介された事もある。 福岡の帰り、僕は峠から帰ろうと思い、その方角に向かった、はずだったのだが、どこで間違えたか記憶にない道に出てしまい、知人に電話で場所を調べてもらったがよく解らない。 引き返すにも遠く、そのまま進む事にしたのが事の始まりだった。 次第に山の中へ中へと入っていく。 雨が降っている。視界が悪い。 車のスピードメーターは、40キロから60キロの間を行ったりきたり。 道はくねくね。 しばらく行くと、「力丸ダムまで・・・キロ」が見えた。 苔にまみれた看板。一瞬だった。目に入ったのは名前の所だけ はっきりとは見えなかった。 ブレーキを踏むたびに後ろについているブレーキランプが点き、後部座席が真っ赤に光る。 バックミラーを見るのが恐い。 「誰か後ろに乗ってたりして」 独り言を言いながら山道を進む。今年で28才になる。 恐い。 カーステレオには、山弦の「JOY RIDE」8曲目 EL LOKO がリピートでかけてある。 山道に入ってもう10回目くらいだろうか。 聞き飽きないと言う事は耳に届いていないのだろう。ん?脳に? 最後にすれ違った対向車からおよそ30分はたっただろうか。 前方に車のライトが光っている。次第に距離がちじまっていく。 「車じゃない?」 そう思った。 「何か工事してるのか?こんな山の中で?」 そうも考えた。 お化けが出ることで有名な犬鳴き峠に近いであろう山の中でライトを点けっぱなしで車が止まっている。 そうは思いたくなかった。 光は二つ、車だ。止まっている。 「なんで?」 後部座席が真っ赤に光る。 すれ違い地点までおよそ10秒。 車の中にはいちゃいちゃしてるカップルが乗っているのだろう。 7秒 急に人が降りてきたりしてははは。 4秒 乗ってるよね? 2秒 乗って無かったりして。 真横に来た時、横目でチラッと、チラッと 見なかった。見れなかった。 雨は霧雨に変わっている。 しばらく行くとまた力丸ダムの看板が見現れた。矢印付き。 二手に分かれた道を左へカーブ。と突然目の前に何かが現れた。 現れた!!って感じだった。山の上から転がるように何か現れて道の真中で止まった。 ライトを上げ、ブレーキを踏む。後部座席は赤。カーステレオからは山弦の8曲目。 ここは山の中。目の前には鹿。 鹿!!鹿だった。間違いなかった。衝撃だった。奈良じゃない。 筑豊のお化けが出ることで有名な山の近くであろう山の中で鹿。 鹿はこっちを見ている。「こっちを見ているシカー」道路の真中で止まってこっちを見ている。 山の中に迷い込んで初めてスピードメーターが0を指した。 鹿は首をプルプルさせ、その場で360°回転し一瞬こっちを見て山の中へと入っていった。 僕はすぐさまアクセルを踏み、携帯を手に取った。 鹿を見たことを誰かに知らせたかった。 僕の顔はニヤニヤし、恐い気持ちを和らげてくれた鹿に多少感謝した。 携帯は圏外。相当山の中らしい。 しばらく行くと明かりが見えてき。ダムの明かりだ。 真っ暗な山の中、車のライトだけで進んで来たからだろうか、ダムの明かりが心地よく優しい。 優しい光。 んで、なんでか行き止まり。ちょっと笑った。行き止まりって。 矢印出てたし。引き返して矢印のところまで戻る。 もう鹿は出てこない。彼は今ごろ何をしているころやら。 見慣れた道に出た。携帯も使える。 手に取った、が誰にも連絡をしなかった。 鹿の事は日誌に書こうそう思った。
僕たちは料理されているのだ。 足りないのはスパイス。 突然とスパイスは=なのかもしれない。 ほんの少しのスパイスが、なんでもないダムの明かりを、優しい光に変えるのだ。
現在深夜3時。今夜は5匹のちわわに襲われる夢でも見ることにしよう。 |